オトメは温和に愛されたい
「し、失礼します……」
 言ってそっと温和(はるまさ)の背中に覆いかぶさったら、鼻先をふわりと彼のシャンプーの香りが(かす)めた。
 温和(はるまさ)は香水などを身にまとうタイプではないけれど、いつも身綺麗にしているから、近付くと、こんな風にふわっといい香りがしてくることがある。それはシャンプーだったり、石鹸だったり、洗濯洗剤のにおいだったり。

 不意に漂ってくるその芳香は、私を不必要にドキドキさせる。

 私が負ぶさったのを確認した温和(はるまさ)が立ち上がった時、膝にピリリと痛みが走ったけれど、同時にまたいい香りがしてきて、ドキドキでそれどころじゃなかった。不幸中の幸い、かな。


***


 温和(はるまさ)に車――彼の愛車のタントカスタム――のところまで運ばれて、助手席側のドアを開けられた私は、不安にかられて温和(はるまさ)を仰ぎ見た。

「あ、あのっ、私こんな目立つところに乗っていいの? 後部シートで大丈夫よ?」

 同僚や子供たちに見られたらマズイんじゃないの?
 そう懸念したつもりだったんだけど。

「別に問題ねぇだろ。隣同士なのは職場にゃ周知の沙汰だし、お前が怪我してるから連れてきました、で黙らせりゃ済むだけの話だ」

 さらりとそんな風に言われて、私は自分が馬鹿みたいに意識しすぎていたことを反省した。

 だって、私、温和(はるまさ)のこと、大好きなんだもん。
 あわよくば、誤解されたいって思っちゃうじゃない。
 言葉とは裏腹な期待を抱いていた自分が恥ずかしくなるぐらい、温和(はるまさ)の言い分は正論だった。
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