オトメは温和に愛されたい
「す、すみませっ……」

　昨日、それで散々温和(はるまさ)に痴態の数々を見せてしまったのを思い出してサッと血の気が引いた。
　良かった、転ばなくて……。
　慌てて鶴見(つるみ)先生から離れると、私は机に手をついて呼吸を整えながら冷静になって考える。

「あの、そのお店って……駐車場、ありましたっけ？」

　考えてみたら余りに歩かないといけないようなら今日は無理かもしれない。
　パンケーキに釣られてそんなことも失念しかけていた自分が恥ずかしい。
　ゆっくりと椅子に着座しながら、窺うように鶴見先生を見上げる。

「あ、少し離れたところのコインパーキングに停めて、になるみたいです。ってなると……やっぱり、足、治られてからのほうが良さそう、です、ね？」

　私の現状を目(ま)の当たりにして、鶴見先生が気遣わしげにそうおっしゃって……私は申し訳ない思いに駆られてしまう。

「本っ当、すみません。もぉー、情けないっ！　あーん。パンケーキ食べたかったぁー」

　謝罪をしながらも思わず本音が漏れて、鶴見先生に笑われてしまった。

「でしたら……！　週末に待ち合わせをして、ご一緒しませんか？　その頃には足もよくなられているでしょうし」

　笑顔でそう問いかけられた私は、その人畜無害そうな表情(かおつき)に絆(ほだ)されて、深く考えずに「喜んで」と答えてしまって。

「じゃあ、またＬＩＮＥでご連絡しますね」

　後から考えて、それってデートなんじゃ？と思った時には後の祭りだった。
< 52 / 433 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop