オトメは温和に愛されたい
 そういえば温和(はるまさ)、私とぶつかったってことは外出しようとしてたんじゃないのかな?
 ふとそんなことを思って、「あ、あの……温和(はるまさ)」と呼びかけたら「喋るなって言っただろ。重さが増す」とか……そんなアホな。

 温和(はるまさ)がこんな風に気を遣ってくれるのは……私が動けなくなったら仕事で彼にしわ寄せが行くからに他ならない。
 私たちの仕事は、頭と同じくらい、身体もたくさん使うから。私と温和(はるまさ)は立場上、切っても切り離せないポジション同士だから……だからきっと、優しくしてくれてる。

「くそっ」
 と、耳元で温和(はるまさ)が再び舌打ちしたのが聞こえてきて、私は申し訳なさに思わず耳を塞いでギュッと唇を噛み締めた。

(お、重くてごめんなさいっ)
 って思いながら。

 だからかな。

 温和(はるまさ)がその後に続けてポツンとつぶやいた、「怪我とか……あり得ねぇだろ……」という声を聞き逃してしまったのは。

 ――温和(はるまさ)にはなるべく迷惑をかけたくない。

 いま、この状況が思い切り迷惑をかけているのだというのは棚上げして、そんなことを思った。
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