オトメは温和に愛されたい
「――音芽(おとめ)

 温和(はるまさ)に、不機嫌さマックスの声音で呼びかけられて、私は座り込んだままビクッと身体を震わせる。

「は、はいっ」

 条件反射でいい返事をしてしまうのは、幼い頃から身についてしまった悲しいサガと言うべきか。

鶴見(つるみ)先生に俺たちの関係のこと、なんて説明した?」

 きゃー。絶対、今、温和(はるまさ)めっちゃ怒ってます、よ、ね?

「あ、あのっ、ち、小さい頃から一緒に育った……お、お兄ちゃんみたいな……存在だと」

 恐る恐るそう答えたら、ギロッと睨み付けられる。

「あん? お前いま(なん)つった? もう一回(もっかい)言ってみろ」

 言うなり私の前にしゃがみ込んで、ほっぺたをギュッとつまむと、そのまま容赦なく引っ張ってきて。

痛い(いひゃい)痛い(いひゃい)っ。温和《はるましゃ》、やめっ」

 本気で痛くて涙目で訴えたら、慌てて鶴見先生が「ちょっ、霧島(きりしま)先生、いくらなんでもやりすぎでしょう!」と止めに入ってくれて。

「部外者は黙っていてもらえますか? これはコイツと俺の問題なんで」

 頬から手を離すと、座り込んだままの私を当然のように抱き上げて、温和(はるまさ)が鶴見先生を睨みつける。
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