オトメは温和に愛されたい
 私は温和(はるまさ)の腕に抱かれて真っ赤になりながら、うつむくしか出来なくて。
 頬が赤くなっているのは、つねられたからだけではないと思う。

「なぁ、音芽(おとめ)。兄貴呼ばわりすんなって約束を破ったんだ。お仕置きされても文句言えねぇって分かるよな?」

 私の耳元に唇を寄せて。私にしか聞こえないぐらいのごくごく抑えた低い声音で、温和(はるまさ)がささやく。
 私はその声に、ゾクッとして身体をすくませた。

音芽(おとめ)、さん?」

 鶴見先生がそんな私に恐る恐る呼びかけてくるけれど、私は彼の方を見ることが出来なかった。

 鍵が開いている私の部屋のドアを当然のように開けると、足元に置かれたままだった荷物を乱暴に中へ蹴り入れて、温和(はるまさ)が私を抱いたまま扉を(くぐ)る。

 そのまま振り返りもしないで

「鶴見先生。俺、今から《《妹》》と二人きりで話がありますんで、これで失礼します。今日はコイツを送ってくださってどうもありがとうございました。後のことは俺に任せてお引き取りください」

 って、本気ですかっ。

 茫然と立ち尽くしたままの鶴見先生を残して、玄関扉が乾いた音を立てて、閉まる。

 それと同時に、温和(はるまさ)が当然のようにドアに施錠したのが、私は無性に怖かった――。

 お、お仕置きってなんなの、温和(はるまさ)っ。
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