オトメは温和に愛されたい
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 一人暮らしを始めたこの春まで、私は市内の割と高級なマンションの五階に、両親とふたつ違いの兄とともに住んでいた。
 同じ階の左隣の部屋には、兄と同級生の男の子がご両親とともに住んでいて。

 兄の奏芽(かなめ)とお隣の彼――温和(はるまさ)――が同い年。おまけに産まれた日付も病院も一緒。母親同士が同室で仲良くなってみたら、何と住まいも隣という偶然に、意気投合したんだとか。
 結果、退院してからも家族ぐるみのお付き合いになったみたい。
 私が生まれた時には、そういうのが当然の状態だったから、温和(はるまさ)のいる霧島(きりしま)家と関わりのない鳥飼家(うち)なんて、逆に想像ができない。

 私は隣家の温和(はるまさ)のことを本当の兄のように慕っていたし、そばにいるのが当たり前だと思って育った。
 当時私を自分の手下か何かのようにしか扱ってくれなかった実兄のカナ(にい)より、隣家のハル(にい)のほうに、私は懐いていたくらいだ。

 少し大きくなって、漢字を理解できるようになった頃、ハル(にい)の名前は、「温和(おんわ)」って書いて「ハルマサ」って読むんだと知ったときの感動ったらなかったな。
 とってもとっても優しい彼に、これほど似合う名前はないって思った。

 誰よりもかっこよくて、頭もいいしスポーツも万能。何でもそつなくこなせて、同性にも異性にも分け隔てなく親切。当然女の子たちからはモテモテの温和(はるまさ)。一緒にいたカナ(にい)が、女の子と見るとトカゲを持って追いかけ回してみたりするようなタイプだったから、余計にハル(にい)の穏やかで柔和な雰囲気に惹かれたっけ。

 顔も整っていて物腰も柔らかでほんわかしてて。
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