オトメは温和に愛されたい
「いっ、痛いっ! 温和(はるまさ)っ!」

 あまりに強く握られて、言いながら顔をしかめたけれど、温和(はるまさ)はそれを無視して言う。

「お前、それ、行く気なのか!?」

 腕に力を込められて詰め寄られるのへ、私はフルフルと首を振った。

「――ま、迷って……る」

 さっき、鶴見(つるみ)先生とあんなことがあったから。

 そう言ったら、温和(はるまさ)がハッとしたように私から身を引いてくれて。

 ややして……、
「約束したんなら……行けよ」
 と突き放すように言われて、てっきり止めてくれるものだと思っていた私は、拍子抜けしたようで悲しくなった。

 私、馬鹿だ。

 温和(はるまさ)に、なにを期待していたんだろう。

「そう、だね。約束は守らなきゃ……だもんね」

 温和《はるまさ》からふと視線を逸らして力なくそう言ったら、ポロリと涙がこぼれた。

 そんな私の頭をくしゃりと撫でると、
「ただし――俺()()も、行く……」

 温和(はるまさ)が、つぶやくようにそう言ってきて――。

 え? 俺()()って……誰?
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