オトメは温和に愛されたい
 太腿を這う温和(はるまさ)の手を、慌てて握って動きを封じたら、代わりに耳朶を軽く()まれてしまう。

「ひぁっ、……」

 途端、全身に鳥肌が立つのを感じた。

「……んっ、に、日曜日っ。公園前っ、のバス停、……で十時っ」

 やっとの思いでそう言ったら
「面白くねぇな。もう降参かよ」
 とクスクス笑われた。

 先の一件以来、温和(はるまさ)のこういうの、どんどんエスカレートしているような気がする。
 こういうことって、付き合ってる二人がするものだと思っていたのに。

 ――違うの?

 真っ赤になりながら温和(はるまさ)を睨みつけたら、「音芽(おとめ)。早く帰らねぇと続きをして欲しいんだと見なすけど?」と言われてしまって。

 私は慌てて温和(はるまさ)を突き飛ばすと、彼の部屋を飛び出した。

 自室に戻ると、ドアに背を預けて溜め息をつく。
 背中にひんやりとした鉄扉の感触が伝わってきて、その感触に胸の奥が冷たく凍りついてくるみたいで。

「あーっ! もう、何なのよっ! いつもいつもっ。温和(はるまさ)のやつ、絶対、誰彼構わずあんなことしてるに違いないのよっ! バカ男っ!」

 だから逢地(おおち)先生にもきっと。
 そう考えた瞬間、胸の奥がズキンと痛んだ。

 私は温和(はるまさ)としかそういうこと、したくないのに……。
 温和(はるまさ)の、バカ……。
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