オトメは温和に愛されたい
「街中をぶらぶらするのもいいし、あてもなくドライブっていうのも捨てがたいかなー。ね? 音芽(おとめ)ちゃん」

 鶴見(つるみ)先生がルンルンでハンドルを握っているのを横目に、私は不安で一杯になりながら窓外に視線を転じる。
 もしかしたら、どこかで温和(はるまさ)が見ていてくれるんじゃないかと期待して。
 でもそれらしき人影はなくて。
 私は無意識に携帯の入った鞄をギュッと抱きしめる。

音芽(おとめ)ちゃん、聞いてる?」

 返事をしなかったからだろう。鶴見先生が言いながら私の肩にそっと触れてきて。いきなりのことに、思わず肩がビクッと跳ねる。

「あ、ご、ごめんなさいっ。何だか男の人とこういうの、慣れてなくて……」

 過剰反応してしまったみたいで恥ずかしくて、取り繕うようにそう言ったら、「わー、それ本当? すっごい嬉しいんだけど」と予想外の反応が返ってきた。

「え?」

 思わずそう呟いて鶴見先生の方を見たら、

「だって僕、今、音芽(おとめ)ちゃんの初体験もらってるってことでしょう?」

 嬉しそうに笑顔を返された。

 私はそれを見て胸の奥がチクリと痛んで。

「あの、つる……た、大我(たいが)さん、どうして私を誘ってくれたんですか?」

 逢地(おおち)先生を誘って、とかなら分かる気がする。彼女は美人だし、スタイルもいい。私とは対極にいらっしゃるようなモテ(じょ)だと思うから。
 私はどう贔屓目(ひいきめ)に見ても童顔だし、背も低くてガサツなチンチクリンだ。
 温和(はるまさ)にさんざんバカにされてきたのも仕方ないと思える程度には、身の程をわきまえているつもり。

「え? 今更それ聞く? 僕、ちゃんと言ったよね?」

 前に音芽(おとめ)ちゃんを家まで送って行って抱きしめた時に――。

 言われて、私はギクッとする。

 そう言えばあの時、耳元で鶴見先生、何か言ってた。でも私、パニックで内容が頭に入ってこなかったんだ。
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