オトメは温和に愛されたい
「ご、ごめんなさいっ。あの時はびっくりしすぎて思考停止してて……何言われたか……実は理解できてないんです」

 しゅん……として(こうべ)を垂れたら、「マジか」とつぶやく声がして。

「ま、マジです……」

 私は恐る恐る彼の言葉を肯定する。

「じゃあ、あれから数日の僕って結構空回り系だったのかなぁ」

 鼻の頭を掻きながらそう言われて、私は「空回り系?」と繰り返しながら鶴見(つるみ)先生を見た。

「僕、音芽(おとめ)ちゃんに好きだって伝えたつもりだったんだけど……伝わって……なかったってことでしょう?」

 ちょうどそこで車が赤信号に引っかかって停車する。

 鶴見先生が困ったような顔で私の方を見つめてきて――。私は彼の言葉を心の中で反芻(はんすう)して、「えっ!?」と思わず声を出していた。

「そ、そ、そ、そ……」

 気が動転して思わず「そ」を繰り返してしまって、鶴見先生に「そ?」と聞き返されて。

 私は一生懸命深呼吸をしてから、頭の中を整理する。

 それからゆっくりと区切るように言葉を紡いだ。

「そ、……それ、本当、ですか?」

 通りで――。
 あの日以降、夜に何通もやり取りしたメッセージが、微妙に噛み合わなかったわけだ。
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