オトメは温和に愛されたい
 そういえば温和(はるまさ)だって同僚だ。
 初めて彼に意地悪でキスされた時、翌朝仕事に行くのが嫌だったっけ、と思い出す。

「わ、私も! 気まずくならないように……したい、です」

 それを思い出してしまって、思わず力強く宣言したら、「それを聞いて安心した」と鶴見(つるみ)先生がひとりごちて。
 私は独り言のようにつぶやかれたセリフと、鶴見先生の嬉しそうな横顔を見て、ハッとする。

 もし鶴見先生の気持ちにお応えできないと告げてしまったら……それは「気まずくなる」ということなんじゃないかしら。

 だったら私は……振り向いてくれない温和(はるまさ)への一方的な気持ちを押し殺して……私を好きだと言ってくれる鶴見先生とお付き合いを始めるべき……?
 波風を立てないようにするってそういうことだったり……する?

 さっきまで「ごめんなさい」と言うつもりでいたのに、私はどうしたらいいのか迷い始めてしまう。

 温和(はるまさ)に好きだってちゃんと言って、彼にはっきり拒絶された後だったら……こんなにモヤモヤしなくて済むのかな。

 私のバカ。温和(はるまさ)に好きだって……何で言わなかったんだろう。

 妹という立場に固執して、その先を夢見ながら現状に甘んじていた自分が、心底嫌になった。
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