オトメは温和に愛されたい
 温和(はるまさ)は、私のそういうズルさに腹を立てていたのかもしれない。
 だから、兄と思われることを頑なに拒み始めたのかな。

 もしかしたら嫉妬してくれてるんじゃないかな?とか期待してしまっていたけれど、そう思った自分が本当に愚かに思えてきて、段々と温和(はるまさ)に「嫉妬?」とか聞いてしまった自分が恥ずかしくなってきた。

 ごめん、温和(はるまさ)。きっと馬鹿なこと言うやつだ、って思ってたよね。何でヤキモチだって肯定してくれないの?って腹立たしく思っていたけど、逆に否定せずにいてくれたのは温和(はるまさ)なりの優しさだったのかもしれないと気づいた。

 貴方が私の行動に嫉妬なんてするはずないもの。
 ただ、私のやることなすことにイライラしていただけなんだ、きっと。
 鶴見先生に対して思わせぶりな態度を取っていることも、温和(はるまさ)に対してどっちつかずの対応をしていることも。
 温和(はるまさ)と付き合ってもいないくせに、お仕置きだのなんだのという曖昧なもので簡単に身体に触れさせて、あまつさえ拒めなかったことも、もしかしたら軽蔑(けいべつ)されていたかもしれない。そう思ったら、恥ずかしくて堪らなくなった。
 どんどん温和(はるまさ)の行為がエスカレートしたのは……私を試していたのかも。
 
 私は窓外を見つめながら、ギュッと拳を握りしめた。

 私、鶴見(つるみ)先生の申し出を受けよう。

 そうすれば、温和(はるまさ)にも、付き合っているわけじゃないのに、そういうことはしないで欲しいってちゃんと言えるようになるよね。
 私、彼氏が出来たから……もう触らないでって。

 そう決意したら、結果的に温和(はるまさ)への気持ちに(ふた)をすることになったからかな。胸の奥がちくっと痛んで……鼻の奥がツン、とした。

 でも……これはきっと自業自得――。
 そう思うのに、景色が涙でぼんやり霞んで見えた。
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