私を変えたのは、契約の婚約者。〜社長令嬢は甘く淫らに翻弄される〜

うつむく癖

「契約成立だ。その証に抱かせろよ、お嬢様?」

 理人さんはその整った顔をニッと崩して笑い、私の唇を奪った。

 そのあまりに流れるような動作に、私は身動きひとつできなかった。そんなふうに笑うとまるでイタズラっ子のようだとぼんやり思う。

 一度触れた後、彼の少し冷たい唇は、もう一度戻ってきて、私の唇を挟むように動いたかと思うと、にゅるりと熱い舌が入ってきた。
 
(キスしたのも初めてなのに、こんなのどうしていいのかわからない……)

 固まった私の反応に構わず、彼の舌は好き勝手に私の口の中を探り、上顎をくすぐるように擦った。ずくんと感じたことのない感覚が生まれて、私は喘ぐ。縋るように彼の腕を掴んでしまった。

(こんな人だったんだ。理人さんって……)

 でも、不思議と嫌ではない。
 一柳さんが嫌で、彼ならいいなんて、なにが違うんだろう? 曲がりなりにも、どちらも男前で仕事ができる人なのに。
 理人さんの方がちょっとは人となりがわかってるからかしら?

 どちらにしても私の結婚相手は政略結婚にしかならない。どうせ愛のない人とこういうことをするのだから、初めては、少しでも嫌じゃない人でよかったと思う。

 キスしながら、私の後頭部に手を這わせた彼は、髪をまとめているピンの存在に気づいて、ひとつひとつ外していった。その手つきは丁寧で、パサリパサリと髪が流れるように落ちてくる。

 全部ピンが外れると、理人さんは唇を離して、私を見た。
 私の髪を手で梳くように広げ、髪が手から流れ落ちていく様子を楽しんでいる。

「綺麗な髪だな」

 そうつぶやかれて、胸がキュッとなる。

(そんなリップサービスいらないのに……)

 手を引かれ、スマートに寝室に誘導されて、ドレスを脱がされる。
 理人さんはとても手慣れていて、手早く私を下着姿にすると、ベッドに押し倒した。

 私の真上にシャープな彼の顔が見える。
 ちょっと長めの前髪が垂れて、私にかかりそうな距離。
 切れ長で鋭い目が検分するように私を見ている。鋭く見えるのは、長くまっすぐ生えた睫毛が目の輪郭を濃く縁取っていて、目を酷使した後のようなクマがあるからかもしれない。
 それでも、魅力的なその顔は、彼が通るだけで女性がざわめくほどで、女の人に不自由していなさそう。

(それなのに、なぜ私の契約を受けてくれたのかしら?)
 
 そんな私の疑問も、理人さんが耳許に唇を寄せてからは、まともに考えられなくなった。

「葉月……」

 ささやく声に、初めて名前を呼ばれた。

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