私を変えたのは、契約の婚約者。〜社長令嬢は甘く淫らに翻弄される〜
 そこに切羽詰まった様子の営業部長が駆け込んでくる。

「宇部部長! 人手を貸してくれないか!? ミスがあって、午後からの大井商会のプレゼン資料ができてないんだ!」
「大井商会って、今期の最重要案件じゃないか! 皆、手の空いてる者は応援に行ってくれ!」

 顔色を変えた宇部部長が言うので、私は立ち上がった。

「あ、水鳥川さんはいいから!」
「水鳥川さんにやらせるような仕事じゃないから!」

 両部長から口々に焦ったように言われた。
 
「私、なんでもやりますから」
「いやいや、本当にいいって!」
「気持ちだけ受け取っておくよ」
「そうですか……」
 
 猫の手も借りたい状況だと思うのに拒まれる。
 まただと思いながら、うつむいた。

「というわけだから、真宮部長、悪いね。午前中は書類整理でもしててよ」

 宇部部長がそう言って、営業部長と出ていこうとしたとき、私を指し示し真宮部長は意外なことを言った。

「それなら、彼女に社内の説明をしてもらっていいですか?」

 一瞬、止まった宇部部長は私の顔を見る。私が頷くと、「あぁ、いいよ。じゃあ、水鳥川さん、よろしくね」と言い、あたふたと出ていった。

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