私を変えたのは、契約の婚約者。〜社長令嬢は甘く淫らに翻弄される〜
 皆が出ていき、残された私は、真宮部長の席へと歩み寄った。

「水鳥川葉月と申します。よろしくお願いします」
「水鳥川ってことは血縁なの?」
「はい。社長の娘です」
「社長令嬢か。だから、さっきのような扱いなんだ。それじゃあ、失礼のないようにしないとね。よろしく、お嬢様」

 失礼のないようにと言いつつ、真宮部長はからかうように失礼な言い草をする。私はむっとしたけど、「お気遣いなく」とスッと流して、彼のパソコンを立ち上げた。

「じゃあ、まず社内のシステムからご説明しますね。総務でお伝えしているパスワードを入力してログインしてください」

 そう言って、パスワードを見ないように目を逸らした。

 「ログインしたよ」という言葉に再び画面を見ると、デスクトップに設置してあるアイコンを指し、ひとつひとつ説明していった。
 うちはオリジナルの社内システムを採用しているから、情報のやり取りはすべてそこで行う。
 真剣に説明しているのに、真宮部長がクスッと笑うから、私は話を止めた。
 気がつくと、座っている彼に半ば覆いかぶさるようになっていて、慌てて身を起こした。
 頬にかかっていた髪を耳にかける。

「なんでしょうか?」

 平静を装って私が聞くと、真宮部長は微笑みを浮かべたまま言った。彼は笑うと鋭い眼差しが緩んで、人懐こい表情になる。

「お嬢様は真面目だね。社内説明って、まずフロアを連れ回されるのかと思った」 
「そちらの方がよろしかったでしょうか? まずはお仕事関係を確認したいかと思いまして、システムを優先してしまいました。失礼しました」

 決めつけずに、まずは聞けばよかったとうつむく。

「いや、正解だ。……お嬢様なのに、うつむくのが癖なのか?」
「申し訳ありません」
「謝る必要もない。気位が高すぎるのもどうかと思うけど、そんなに自信なげにしなくてもと思っただけだよ」
 
 自信に満ち溢れた彼と、なんの自信もない私。
 そんなこと言われてもと、またうつむきかけて、はっと気づき、視線を逸らした。
 
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