私を変えたのは、契約の婚約者。〜社長令嬢は甘く淫らに翻弄される〜
 真宮部長はそれ以上深くは追求せず、「説明を続けて」と言った。
 説明をして、質問に答えている間に、気がつくと、なぜか私への質問になっていた。仕事内容やスキルなど、あれこれ質問をされる。
 就職前に役に立つかと思って、簿記試験や秘書検定を受けてみた。ビジネススキルも身についているはずだ。
 それを言うと、真宮部長は「やっぱりお嬢様は真面目だね」と笑った。
 
「それで、今の仕事量はどう?」
「もっと私にできることがあればと思っています」
「つまり物足りないか」
「いえ……」
「仕掛りは?」
「特にありません」

 翌日に持ち越すような仕事を任せられていない。忙しいと言っている人に声をかけても、遠慮されるので、最近は声をかけること自体しなくなった。
 答えながら情けなくて、だんだんうつむいてきてしまう。

「ふ〜ん、わかった。ありがとう」

 真宮部長は一通り聞き終わったようで、質問攻めは終わって、ほっとした。

「フロアの説明は要りますか?」
「なにか知っておくべきものはあるか?」
「部署の説明は総務部からありましたか?」
「あぁ、それはいい」
「あとは、社員食堂をご利用されるなら、二階にあります。そこに自販機コーナーと、ちょっとした休憩スペースがあります。自販機はこのフロアにもありますが。喫煙室は……」
「タバコは吸わないからいい」
「それくらいでしょうか」
「あぁ。ありがとう」

 私は会釈をして、自席に戻った。
 その日はそれで真宮部長とのやり取りは終わり、それ以降、話すこともなかった。それなのに、翌日、真宮部長のアシスタントに指名されて、驚いた。
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