逆プロポーズした恋の顛末
(めちゃくちゃ好みなんだけど)
もしも、正気を失うほど酔っていたら、触りまくってしまう自信がある。
強いて欠点を挙げるとすれば、明らかに年下ということだろうか。
生意気そうな表情、挑発するようにこちらを見つめる瞳には、何かを諦めたことのない人間の持つ、独特の輝きが存在していた。
「俺がお子様なら、アンタはオ……」
我を忘れてうっとり見惚れていたが、妙齢の女性に対する禁句を聞き逃せるほどではない。
本当はキスで塞ぎたいくらいの魅惑の唇に、おしぼりを押し付けた。
「おだまり」
(こんな生意気なお子様、顔が好みでも中身は好みじゃないわっ!)
「マスター、この無礼な小僧をつまみ出してもいいかしら?」
「僕はかまわないけど、ジンくんは大人しくつまみ出されるような子じゃないからねぇ」
「じゃあ、バケツの水を頭からかけてやろうかしら? 酔いも醒めるんじゃない?」
「うーん、どうかな。まったく酔っていないからねぇ」
「え?」
「彼が飲んでるのは、ウーロン茶。ジンくん、お酒が飲めないんだよ」
マスターの言葉を聞いて、その口を覆っていたおしぼりを放り出し、彼のグラスを奪ってわずかに残っていた液体を飲む。
「…………」
ウーロン茶だった。
「まぎらわしいことしてんじゃないわよ!」
「飲めなくても、雰囲気くらい楽しんでもいいだろ!」
悔しそうに喚く彼に、つい微笑んでしまう。
(あら……カワイイ)
「まぁ、背伸びしたい年頃もあるわね。うん、うん。わかる、わかる。マスター、この子にウーロン茶のおかわりを。わたしの奢りで」
よしよし、と頭を撫でてあげた手を邪険に振り払われた。
「そうじゃねーよ! この子ってなんだよ!」
「キャンキャン吠えないの。知ってるかしら? 吠える犬ほど弱いって」
「俺は、犬じゃねぇ」
「やぁねぇ、たとえよたとえ。本気にしないの!」
むっとした表情でこちらを睨む彼のやんちゃな雰囲気は、母性本能をくすぐる。
けれど、実態は甘え上手な年下男ではないと思われる。
スニーカー、無地ではあるがしっかりした造りのTシャツ。
いい感じにくたびれたジーンズ。
ラフな恰好でも安っぽく見えないのは、「自信」が滲み出ているからだろう。
たぶん……いや、まちがいなく、プライドはかなり高い。