逆プロポーズした恋の顛末
部屋の壁紙は、草原と青空を模したもので、空色の天井には鳥の絵が描かれている。
毛足の長いラグは深い緑色。クマやライオンなど大きいぬいぐるみがあり、テーブルや椅子は木の切り株風。ソファーに並ぶクッションは動物の顔をしていた。
さらに、ベッドサイドの小さな本棚には、動物が主人公の絵本がぎっしり並んでいる。
「すごーい! すごいね? ママ!」
「うん。すごいね……動物園の中にいるみたい」
「あ! えほんがいっぱいあるよ!」
「うん。あとで読もうね」
「まくらが、ヒツジさんだよ!」
「ほんとだ」
「このパンダの服、ぼくの?」
「そうだよ。ごはんの前に、お風呂に入って着替えよっか」
歩き回り、走り回った幸生は汗をたくさんかいている。
お腹がいっぱいになった途端、寝落ちする可能性もあるので、先にお風呂に入れてしまった方がよさそうだ。
「先に、幸生とお風呂に入ってもいい?」
「ああ。食事は、一時間後で頼んでおく」
尽は、軽く頷いてベッドの上に置かれたゼブラ柄のルームウェアを押し付けてきた。
肌触りがよさそうだが……そういうものを着てカワイイと言われる年齢は、とっくの昔に通り過ぎている。
「ね、寝るときでいいじゃない?」
「こういう時は、ノリが大事だろ。幸生、ママがシマウマになるのを見たいよな?」
「うん! ぼくはパンダ、ママはシマウマ!」
「…………」
幸生を味方につけた尽をひと睨みし、しかたなくゼブラ柄のルームウェアを引っ掴み、幸生と一緒にバスルームへむかう。
バスルームは、ジュニアスイートなだけあって広々としていて、浴槽は丸型のジャグジーだった。
幸生はくすぐったいと大喜び。
お風呂に用意されていたおもちゃも動物づくしで、お湯をはね散らかすアヒルに辟易しながら、いまがチャンスと幸生に訊いてみた。
「ねえ、幸生。おにいちゃん先生のこと……パパって呼んでみたかったの?」