逆プロポーズした恋の顛末
素直に同意した幸生だが、尽が気になっているのは明らかだ。
ソワソワと落ち着かない様子で、おざなりに絵本をめくっている。
ほどなくしてルームサービスで夕食が届けられ、スタッフがテキパキとテーブルセッティングをする。
そうこうしているうちに尽もバスルームから戻り、わたしたちが揃って席についたところで、スタッフが料理を覆う銀色のクローシュを取り払った。
「うわー、美味しそう!」
幸生は、目の前に現れた料理に大興奮だ。
大人用のメニューは創作和食。子供用のメニューは年齢に合わせた豪華なお子さまランチ。
クマの顔で盛りつけられたカレー、飾り切りでカピバラになったウィンナー、カリフラワーで出来たヒツジなど見るだけでも楽しい。
しかも、皿やグラス、カトラリーに至るまで動物のデザインがあしらわれている徹底ぶり。
幸生はもちろん完食。
いつ寝落ちしてもいいように歯みがきをしてから、今度は絵本タイムに突入する。
「ぜんぶ読む!」
そう宣言して、尽の前に絵本を次々積んでいく。
「全部は無理だろ」
尽は、苦笑いしながらも、ねだられるままに絵本を読み、繰り返される質問に根気よく答え、三冊目で寝落ちした幸生をベッドへ運んだ。
「あっさり寝たな。まだ八時になっていないのに」
「一日中歩き回ってたし、さすがに疲れたんでしょ。尽も、おつかれさま。何か飲む?」
幸生を下ろしたあともベッドわきに立ち尽くし、じっと眠る様子を見下ろす尽に声を掛ける。
部屋に備え付けの冷蔵庫には、ジュースやミネラルウォーターだけでなく、各種アルコールも揃っていた。
「ノンアルがあれば」
「ビールがあるけど……別に、飲んでもいいわよ?」
「たまに料理と合わせてワインを飲むくらいで、晩酌の習慣はない。律こそ、飲まないのか?」
「うん。幸生を妊娠してから、アルコールを飲まない生活が長く続いたせいか、めっきり弱くなっちゃって」
並んでソファーに座り、グラスには注がず缶のままで乾杯する。
「おつかれさま」
お互い無言のまま、二口ほど飲んだところで、尽がおもむろに口を開く。
「……どうして、いきなり打ち明けたんだ?」