逆プロポーズした恋の顛末


素直に同意した幸生だが、尽が気になっているのは明らかだ。
ソワソワと落ち着かない様子で、おざなりに絵本をめくっている。

ほどなくしてルームサービスで夕食が届けられ、スタッフがテキパキとテーブルセッティングをする。

そうこうしているうちに尽もバスルームから戻り、わたしたちが揃って席についたところで、スタッフが料理を覆う銀色のクローシュを取り払った。


「うわー、美味しそう!」


幸生は、目の前に現れた料理に大興奮だ。

大人用のメニューは創作和食。子供用のメニューは年齢に合わせた豪華なお子さまランチ。
クマの顔で盛りつけられたカレー、飾り切りでカピバラになったウィンナー、カリフラワーで出来たヒツジなど見るだけでも楽しい。
しかも、皿やグラス、カトラリーに至るまで動物のデザインがあしらわれている徹底ぶり。

幸生はもちろん完食。
いつ寝落ちしてもいいように歯みがきをしてから、今度は絵本タイムに突入する。


「ぜんぶ読む!」


そう宣言して、尽の前に絵本を次々積んでいく。


「全部は無理だろ」


尽は、苦笑いしながらも、ねだられるままに絵本を読み、繰り返される質問に根気よく答え、三冊目で寝落ちした幸生をベッドへ運んだ。


「あっさり寝たな。まだ八時になっていないのに」

「一日中歩き回ってたし、さすがに疲れたんでしょ。尽も、おつかれさま。何か飲む?」


幸生を下ろしたあともベッドわきに立ち尽くし、じっと眠る様子を見下ろす尽に声を掛ける。

部屋に備え付けの冷蔵庫には、ジュースやミネラルウォーターだけでなく、各種アルコールも揃っていた。


「ノンアルがあれば」

「ビールがあるけど……別に、飲んでもいいわよ?」

「たまに料理と合わせてワインを飲むくらいで、晩酌の習慣はない。律こそ、飲まないのか?」

「うん。幸生を妊娠してから、アルコールを飲まない生活が長く続いたせいか、めっきり弱くなっちゃって」


並んでソファーに座り、グラスには注がず缶のままで乾杯する。


「おつかれさま」


お互い無言のまま、二口ほど飲んだところで、尽がおもむろに口を開く。


「……どうして、いきなり打ち明けたんだ?」

< 104 / 275 >

この作品をシェア

pagetop