逆プロポーズした恋の顛末
だから、尽にはリビングで寝てもらうつもりだったのだが、幸生が三人一緒がいいと言い張ったため、毎晩川の字で寝ている。
眠りに落ちるまで、心臓が落ち着かない。
けれど、それもあと二日だ。
明日の土曜日には、所長が帰って来る。
そして、明後日の日曜日には、尽がN市へ戻る。
幸生には、あらかじめ尽とは日曜日までしかこのアパートでは一緒に住めないと言ってあるが、これからのことを何も決めずに、尽を見送るわけにはいかない。
(一緒に暮らすのが一番。……なんだろうけれど)
リビングのテレビ台に置いたデジタルフォトフレームに、先ほど撮影した二人の寝姿の写真を転送しながら、小さく溜息を吐く。
尽とわたしの関係がどうなろうとも、幸生にとって彼が父親であるのは一生変わらない事実だ。
できるだけたくさん父親との思い出を作ってあげたいと思う。
休みの日にだけ会うとか、行事やイベントの時にだけ会う、という方法もなくはないが、忙しい尽は休みを確保するだけでも大変だろう。
こちらから会いに行くとしても、わたしの仕事が休みの土曜か日曜日に、彼が休みとは限らない。
ほんの数時間一緒に過ごすだけか、下手をしたら顔を見るだけ、という展開もあり得る。
そんな状態で、幸生と尽が――わたしが、満足できる関係を築けるとはとうてい思えなかった。
問題を解決する一番手っ取り早い方法は、三人で暮らすことだ。
幸生も尽も、それを望んでいると思う。
二の足を踏んでいるのは、自分ひとり。
(頭でアレコレ考えていても、客観的に見れば……わたしたちは、どこからどう見ても家族よね)
A5サイズのデジタルフォトフレームの画面には、そっくりな笑顔をした尽と幸生、そして、楽しそうに笑うわたしが映っていた。
はじめての家族写真は、偲月さんが撮ってくれたものだ。
動物づくしのホテル滞在を満喫した翌日、チェックアウトの際にフロントで渡された紙袋には、予想外のプレゼントが入っていた。
プランに付いている動物のキーホルダーやシールのほか、偲月さんが撮影した野生動物の写真集と最新式のデジタルフォトフレームも入っていたのだ。
いろんな野生動物の姿を写し取った写真集には、千陽ちゃんが描いたと思われる謎の生き物の絵に、『こうきくんへ』と書かれたカードが添えられていて、幸生を大喜びさせた。