逆プロポーズした恋の顛末


(先生、と呼ばれる職業の気がするけど、こんな口の悪い弁護士はいないだろうし? 学校の先生なんて、あり得ない。芸術関係でもなさそう。爪もキレイに手入れしてるし…………やっぱり、「D」のつく仕事?)


相手を素早く観察し、職業やら性格やらに当たりをつけるのは、職業病だ。


「楽しくお酒を飲みたいなら、肩書きは忘れた方がいいわ。ちやほやされたいなら、話は別だけど。そういうのがお望みなら、うちのお店に来てよ? センセ。一見さんお断りだけど、わたしの知り合いなら入れるから」

「センセ? うちの店?」


怪訝な顔をする彼の目の前に、常にお財布の中に数枚は入れてある名刺を差し出す。


「クラブ『Fortuna(フォルトゥーナ)』……アイ?」

「アイは源氏名。わたし、ホステスなのよ。ハタチの時からだから、もう八年になるわね」

「二十プラス八、ということは、いまにじゅう……」


わたしのひと睨みで、彼はわざとらしく口を噤む(つぐ)


「りっちゃんがここに来るようになってから、そんなに経つのかぁ……。ぜんぜん変わらないから、初めてお店に来たのが、昨日のことのように思われるよ」


しみじみ呟くマスターに、「そんなわけないでしょ」と苦笑いする。

たれ目がち、しかも童顔のせいで、初見のお客さんには未だ新人と思われることもあるけれど、お肌のハリツヤ、ボディラインは、定期的に大がかりなメンテナンスが必要だ。


「ところで、地元に帰っていたって……何かあったの?」


マスターは、訊くべきタイミング、引くべきタイミングを心得ている。適当にごまかせば、深く踏み込んでは来ない。

でも、ホステスになったばかりの頃からずっと、愚痴や弱音を聞いてもらっていた。

どうしてホステスの仕事をすることになったのか。
祖母がどんな状態なのか。

勤め先の店の同僚にさえ話していないことも、マスターには話してきた。


「……祖母が、亡くなったんです」

「そう……」


マスターは、わずかに目を見開いたものの、大げさなお悔やみの言葉を口にしたり、同情する素振りを見せたりはしなかった。


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