逆プロポーズした恋の顛末
そして、デジタルフォトフレームには、千陽ちゃんと幸生の写真だけでなく、この家族写真も一緒に収められていた。
いつ撮られたのか、まったく記憶にないけれど。
『ガンガン家族写真を追加しちゃってくださいね! ちなみに、七五三の撮影なんかも承っておりますので、夕城偲月までご用命くださ~い!』
箱に貼られていた彼女の名刺には、そんなメッセージまで記されていた。
心の籠った気遣いに恐縮してしまったが、尽が打ち明けたところによれば、夕城夫妻の気遣いはそれだけではなかった。
尽が貰ったという動物園のチケットは、園のサポーター兼専属カメラマンである偲月さんから。
わたしたちが泊まった部屋は、ホテルを傘下に収める『YU-KIホールディングス』の副社長である朔哉さんからのプレゼントだという。
朔哉さんと尽は仕事を通じて交流があり、偲月さんからわたしと幸生のことを聞き、ぜひとも恩返し代わりに協力させてほしいと言われたらしい。
だから、動物園での再会も、偶然ではなかった可能性が高い。わたしたちが上手くやっているかどうか気になって、様子を偵察に来たのだろうと、尽は苦笑していた。
「幸生、着替えるぞ」
「はーい」
顔を洗い、尽に寝癖を直してもらった幸生は、聞き分けよく尽と一緒に寝室へ向かった。
幸生の服は、昨夜のうちにわたしが枕元に用意してある。
幸生が自分で着替えたあとの最終チェックは尽に任せ、わたしは朝食の準備に取りかかった。
食パン一枚、サラダ、目玉焼き。幸生にはオレンジジュース、尽とわたしにはコーヒー。
大したメニューではないけれど、いままで一・五人分でよかったのが、二・五人分作らなければならないので、作業量は増えている。
オーブントースターでパンをトーストする間に、ボウルに入れたレタスやパプリカなどをドレッシングで手早くあえて器に盛りつけていると、幸生の声が聞こえた。
「それじゃなくて、きょうは青、ブルーの服がいい!」
わたしが用意していたのは、オレンジ色のカーゴパンツに茶色のロンTだ。
脱ぎ着しやすく、汚れがあまり目立たない組み合わせ。
これまでも何度か着ているし、イヤがられたことなどないのだが……。