逆プロポーズした恋の顛末
「え? なんでオレンジじゃダメなんだ?」
尽が戸惑いを滲ませながら問う。
わたしも首を捻ったが、対する幸生の答えは簡潔だ。
「パパがブルーの服だから! ブルーの服にする!」
(なるほど……何でも尽の真似がしたいのね。でも、親子でペアルックなんて、尽に似合わなさそう……)
ネズミのキャラクターがついたトレーナーを着る尽を想像し、噴き出しそうになる。
「幸生には……オレンジが似合うと思うぞ?」
尽は、苦し紛れにそんな言葉を返したが、幸生はもちろん納得しない。
「ヤダ! ブルーがいい!」
「どうしてもか?」
「どうしてもっ!」
「……わかったよ、ブルーだな」
寝室の様子はキッチンから窺えないが、がっくり肩を落としてタンスをひっかき回している尽の姿が目に浮かぶ。
わたしとふたり暮らしでは、幸生がこんな風にワガママを言うなんて、滅多になかった。
それが、尽と暮らし初めてから、「アレがいい」「これがイヤ」など、すごく自分の意見を主張する。
イヤイヤ期が始まったのかも……と、保育園での様子を園長先生や保育士さんに訊いてみたが、園では相変わらず聞き分けがいいとのこと。
おともだちと喧嘩することもないし、おもちゃや絵本もすぐに譲る。
唯一の変化と言えば、ことあるごとに、動物園に行った時のことを上機嫌で話すくらい。
つまり、幸生は尽限定でワガママになる。
つまり、甘えているのだ。
保育のプロたちには、そのうち落ち着くと思うので、叱ったりせずに見守ってあげてほしいと言われた。
「律―!」
「なぁに?」
「幸生の服、ブルーのものはあるか?」
尽が、音を上げて助けを求めてきた。
「あるわよ。上から四段目にブルーのズボンが入ってるし、グレーの長袖のシャツが三段目にあると思う」
「三段目と四段目……あった! これでいいか? 幸生」
「いいよっ!」
無事、幸生のお眼鏡にかなったようで、ほどなくして着替えを終えた二人がリビングに現れた。
「ママ、ごはん!」
「まずは、ちゃんと座って。それから……」
「いただきまーすっ!」