逆プロポーズした恋の顛末
これからのわたしたち
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「そろそろ出ないと、帰って来るのが夜中になっちゃうかもしれないわよ? 立見先生」
いつもよりだいぶ遅い時間となった昼休憩。
三十分も経たないうちに、山岡さんから言われた尽は、苦笑する。
「そうですね」
今日が尽の最終勤務日だったため、診療所は朝から混んでいた。
自家製漬物、家庭菜園の野菜、手作りのお菓子、自慢の庭で育てた花で造ったアレンジメントなど、様々な贈り物と共に常連さんたちが押しかけたのだ。
また来てほしいとラブコールを送る彼らの中には、わたしと尽の関係を聞きつけた人もいて、所長の跡をふたりで継げばいいと耳打ちされた。
そんな大繁盛のせいで、いつもより遅い昼休憩となったのだが、午後からの訪問診療を遅らせるわけにはいかない。
遅らせれば遅らせるだけ、帰りが遅くなるのは……もれなく各訪問先でお茶と長話に付き合うことになるからだ。
「じゃあ、行ってきます。五時までには……」
「戻れない、でしょ?」
「ですね」
「いってらっしゃい」
「山道、タヌキが出るから運転には気をつけてね!」
山岡さんとふたりで尽が車で出て行くのを見届けてから、いつものように掃除や発注に取りかかる。
ひと通り作業を終え、もうすぐ五時になろうかというところで、電話が鳴った。
「はい、浜町診療所です」
『律?』
「はい」
電話の向こうから聞こえたのは尽の声だ。
『タケさんが骨折した』
「えっ!?」
『これから、救急車に同乗して隣町の総合病院へ向かう。山岡さんはまだいるか? ミチさんのところ、代わりに行ってほしいんだ』
「わ、わかったちょっと待って」
慌てて山岡さんを呼び、電話を替わってもらう。
山岡さんは尽の指示に頷きながら手早くメモを取り、再び受話器をわたしに押し付けるとバタバタと診察室へ向かう。
「尽、タケさんの様子は……」
『屋根に上ろうとして、はしごから転落したらしい。頭も打っているし、衰弱している。家族の連絡先がわかる人がいたら、事情を伝えるよう頼んでほしい。それと、俺の車はキーを着けたままにしておくから、誰かに引き取って来てもらえるとありがたい』