逆プロポーズした恋の顛末
リビングのソファーで絵本を睨んでいる幸生から離れ、寝室で尽に電話を架けてみた。
電源を切っている可能性は高いが、ダメもとだ。
しばらく鳴らして応答がなければ諦めようと思っていたが、思いがけずワンコールで尽が応答した。
『律。ちょうどいま、電話しようと思っていたところだった』
「そうだったの? あの、タケさんは……」
『右腕とくるぶしを骨折、皮下血腫もあるが、手術は無事終わって、いまのところ容体も安定している。ご家族が到着して、入院手続きも滞りなく済んだから、俺はお役御免なんだが……』
時刻は、すでに午後九時。
ローカル線の電車の最終はとっくに終わっている。
『これから、タクシーで帰る』
「迎えに行くわよ?」
『は?』
「幸生が寝てくれなくて、困ってたの」
『でも、』
「幸生! パパがお迎えに来てほしいんだって。一緒に行く?」
リビングにいる幸生に呼びかければ、飛んできて、わたしの横からスマホへ向かって叫ぶ。
「パパ! お迎え、行くよっ!」
『そっか。じゃあ、迎えに来てもらおうか』
尽は、笑いながら幸生の申し出を受けた。
「いまから準備しても、一時間まではかからないと思うから」
『わかった、待ってる。ついたら連絡してくれ。気をつけて』