逆プロポーズした恋の顛末
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初夏は間近だけれど、夜の気温はまだ低い。
大急ぎで幸生にパジャマの上からコートを着せ、バッグに必要なものが入っているか確認して、アパートを出た。
幸生は、尽を迎えに行くだけでなく、夜のおでかけにもワクワクしているようで、「お月さまが見える」だの「お星さまがいっぱいいる」だのはしゃいでいたが、チャイルドシートに座り、車が走り出して十分と経たずに寝落ちした。
寝てくれないときはドライブに連れ出せばいいのかも……なんてことを考えながら、街灯もない田舎道をひた走ること四十分。
住み慣れた町に比べると遥かに都会の隣町にさしかかる。
普段は道路も混雑しているのだろうが、数台の車とすれちがった程度で病院に到着した。
夜間の入口近くに車を停め、幸生を起こさないように降りてメッセージを送る。
ややしばらくして、自動ドアを潜り抜け、尽が現れた。
「迎えに来てくれて、助かった」
「大した距離じゃないから」
「幸生は寝落ちか?」
さすがに疲れた表情をしていた尽だが、後部座席で眠る幸生を覗き見て、ホッとしたように柔らかな笑みを浮かべる。
「走り出して十分とせずに。いつもなら、とっくに寝ている時間だもの。中途半端に起きるともう一度寝かせるのが大変だから、このままアパートへ帰り着きたいわね」
そう言って運転席のドアを開けようとしたら、尽に止められた。
「俺が運転する」
「疲れてるんでしょ? 大人しく助手席に乗って。いまは、ペーパードライバーじゃないの。こっちに住むようになってから、時々所長の車を運転したりしているし」
反論は受け付けない、ときっぱり言い渡せば、渋々「……じゃあ、頼む」と言って、助手席に乗り込んだ。