逆プロポーズした恋の顛末
「それにしても……タケさん、ちょうど尽が訪問する日でよかったわね?」
「雨漏りが気になって、自分で屋根の修繕をしようとしていたらしい。かけつけた娘さんに、こっぴどく叱られていた」
「年の割に元気だから……」
「身体を動かすことが多いからだろうな。整形の医者は、八十とは思えないほど骨がしっかりしていると褒めてたよ。強運の持ち主だとも。運び込まれるのがあと一時間遅かったら、町を出ていたらしい。総合病院とは言っても、科によっては隔週の診療なんだな?」
「うん。田舎に常勤で来てくれるお医者さんは、なかなかいないみたい」
「敬遠する理由はひとそれぞれだろうが、医師としてのキャリアや家族のことを考えると……難しいだろうな」
「尽も、やっぱり田舎で働くのは敬遠したい? 所長は、尽が地域医療に興味があるって言ってたけれど……わたしと幸生に会わせるための嘘?」
「いや、嘘じゃない。在宅診療の必要性はこれから高まると思うし、交通の便がいい都会でも、諸事情により、病院へ来られない患者はいる。受け身で待つだけでは、取りこぼしてしまう。新たな試みを検討する参考にしたかった。じっくり話を聞いて、しっかり患者と向き合うことにもつながるし。規模が大きい病院だと、特に外来は、どうしてもひとりの患者と向き合う時間が少なくなるから、実際に経験するいい機会だと思ったんだ」
「確かに、大きな病院はいつも混んでいるものね。ところで……尽は、何科のお医者さまになったの?」
四年前も、一緒に暮らしているいまも、尽が実際に何を専門としているのか、知らないままだった。
「は? 知らなかったのか?」
「うん。だって、言われてないし、訊いてないし」
「後期研修は一般外科だったが、いまは内科医を目指して再研修中だ。そのうち小児内科も勉強したいと思っている。だいぶ先の話になるかもしれないが……」
専門を決めたら、それ一筋でいくものだと思っていたので、外科から内科へ、さらには小児科もと言うのに驚いた。
「えっと……外科も内科も小児科も診られるお医者さまになりたいってこと?」
「まず何かおかしいと思った時、患者が真っ先に相談できる医者になりたいんだ」
「つまり、所長みたいな?」
「そうだ」