逆プロポーズした恋の顛末


結局、幸生は一睡もすることなく一時間半の旅が終了し、N市に到着。

幸生の手を引いてホームに降り立ち、改札を出た途端、うんざりしてしまった。


(こんなに人が多かったっけ……?)


新幹線の駅と在来線の駅が繋がっているため、平日の昼間でもかなりの人の行き来があるが、大型連休初日ということもあって、大きな荷物を持った人で混雑している。

たった四年前までは日常だったのに、すっかり田舎暮らしに慣れたいまは、人が多いというだけでも息苦しさを感じた。

幸生も、行き交う人の多さに驚いている。


「ママ、ひとがたくさんいるね? みんなどこに住んでるの?」

「この近くに住んでいるひともいるし、もうちょっと遠くに住んでいるひともいる。お仕事とか、お買い物でこの駅を使っているひともいるの。それに、長いお休みが始まるから、お出かけするひとが多いみたいね」

「ふうん? あそこが出口?」


広い通路の先に、明るく大きな開口部が見える。


「そう。あそこから出て、タクシーでパパのおうちへ行くんだけど……」


保育園でも、お散歩に行くことはあるし、交通ルールはきちんと教えてくれている。
しかし、車通りがほとんどない田舎育ちの幸生が、本当に理解しているとは思えなかったので、駅舎から外へ出る前に、言い聞かせておくことにした。


「その前に、約束してくれる? 幸生」

「する!」

「ここは、たくさん人がいて、たくさん車もいるから、とっても危ないの。だから、ママの手を離して、ひとりでどこかへ行こうとしないでね?」

「うん! ねえ、ママ。パパのおうちは遠いの?」

「んー。そうでもないかなぁ?」


何となく残っている土地勘では、尽の住むマンションは、駅からさほど遠くないはずだ。

タクシー乗り場の列に並び、スマホに登録した尽のマンションの住所を呼び出そうとしたところ、ちょうど尽から着信があった。


「尽?」

『律、いまどこだ?』

「いま、駅に着いて、タクシー乗り場で並んでいるところだけど……」

『前方に、ピックアップレーンがあるのはわかるか?』

「ええ」

『列を離れてそっちへ向かってくれ』

「え?」

『シルバーのワンボックスカーの後ろにいる』


電話を切って視線を巡らせれば、半円を描く通りの先に、ネイビーブルーの車体が見えた。


< 134 / 275 >

この作品をシェア

pagetop