逆プロポーズした恋の顛末
一瞬、ポカーンとした表情になった彼は、わたしが「ねえ、プロポーズの返事は?」と訊ねると、忌々しげにこちらを睨みつけ、そっぽを向いた。
「りっちゃん。見た目とちがって、意外と純情なジンくんをからかっちゃダメだよ」
くすりと笑ったマスターの苦言に、「あらー、傷ついちゃった? ごめんねー?」と笑って彼の頭を撫でると、「うるせぇ!」と再び邪険に手を振り払われる。
生意気だけれど、わたしが失くしたものを持っている彼が、眩しかった。
(いい出会いだったし……いい目の保養だったわ)
「マスター、お会計」
「もう帰るの?」
「うん。やっぱり疲れてるのか、眠くなってきちゃった」
たっぷり飲まなくては、祖母を亡くした哀しみを癒せないかもしれないと思っていたけれど、いくぶん気持ちが軽くなっていた。
久しぶりに、ぐっすり眠れそうだ。
ウーロン茶の分も含め、カウンターに多めにお金を置く。
彼は、ちらりともこちらを見ようとしない。
からかいすぎたかとちょっぴり申し訳ない気持ちになって、その耳元に唇を寄せた。
「あなたなら、きっといいお医者さまになれる」
びっくりした顔で振り返った彼の頬に、わざとらしく音を立ててキスをする。
「数々の失礼な発言は、これで帳消しにしてあげるわ。おやすみ」