逆プロポーズした恋の顛末
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先日、尽と幸生が寝ている間に電話を架けてきた午来弁護士は、四年前、わたしに尽と別れるよう要求した依頼人――尽の祖母が、わたしと幸生に会いたがっていると告げた。
彼の話では、尽の両親と会う席に彼女は同席できないため、別途わたしたちに会う機会を設けてほしいと依頼されたのだという。
尽には、内緒で。
会ってどうするつもりなのか。
具体的なことは、彼も聞かされていないようだったが、わたしと幸生を傷つけるためではないと断言した。
四年前、彼が弁護士としてだけでなく、尽の友人として、誠実な対応をしてくれたことを考えれば、適当なことを言っているとは思えなかった。
でも、幸生も一緒にとなると、慎重にならざるを得ない。
すぐに「会います」とは言えなかった。
午来弁護士は返事を迷うわたしに、ためらう気持ちは十分わかる。ゆっくり考えて、と言いたいところだが、待てない事情があるのだと打ち明けた。
『依頼人は、在宅で緩和ケアを受けていたのですが、近々遠方のホスピス施設へ入院することになっていて、こちらにいる間に、ぜひお会いしたいと強く希望されています』
――いまを逃がせば、彼女と話す機会は二度と訪れないかもしれない。
祖母を看取れなかった経験が、怖気づいていたわたしの背中を押した。
一度も会わずに彼女が亡くなってしまったら、きっと後悔する。
彼女が、いまもわたしと尽の仲を認めていない可能性はあるし、幸生の存在を快く思っていない可能性もある。和解どころか、決定的な言葉を投げつけられるかもしれない。
怖かった。
怖かったけれど、直接会って彼女の人となりを自分の目で、耳で、確かめたい気持ちが上回った。
――本当に、彼女は所長が言うように、ワガママで身勝手なだけの人なのだろうか。
尽に相応しい女性との縁談を進めるために、お金をちらつかせ、わたしに別れるよう迫った。
その事実だけを見れば、確かに彼女は他人の人生を自分の思いどおりにしようとする、ワガママで身勝手な酷いひとだ。
けれど、あの時提示された金額やマンション、店を出すなら援助までするという申し出は、たった半年程度の付き合いしかなかった相手にするにしては、破格のものだったと思う。
別れを迫った理由も、裏を返せば、尽の将来を考えてのこと。
尽の友人である午来弁護士に依頼したのも、彼なら尽の気持ちに配慮しながら、上手く事を運んでくれると思ったから。
つまるところ――尽の意志を無視して行動した点は責められるべきかもしれないが――、それだけ尽のことを考え、心配していたとも言えるのではないか。