逆プロポーズした恋の顛末


久しぶりに、浮かれた気分で店を出て、駅への道を歩く。

初対面の相手に自分からキスするなんて媚びたマネは、いままでしたことがないし、したいと思ったこともない。

でも、どこか頑なだったわたしの気持ちを柔らかくしてしまう何かが、彼にはあった。

生意気で、ちょっと俺様だけど……赤の他人を想って、怒ったり哀しんだりできる優しさを持っている彼なら、きっと恋人も大事にするのだろう。

まちがいなくこんな痴女とは、もう二度と会いたくないと思っているだろうけれど。

出禁にされたくないから、マスターにはあとでお詫びのメールをしておこうと思いつつ、鼻歌を歌っていたら、いきなり背後から肩を掴まれた。


「ぎゃっ」


およそ色気のない悲鳴は、よろめいてぶつかった厚い胸板で打ち消される。


「中途半端にヤリ逃げすんなよ!」


聞き捨てならない、しかも他人が聞いたら大いに誤解しかねない発言をかましたのは、「彼」だ。


「あのねぇ、頬にキスしたくらいで……」


打ち付けた鼻を擦りながら見上げた途端、唇に柔らかなものが触れた。

高校生の頃、道端でキスをするカップルを見て、羨ましいけれど自分には無理だと思った。

ホステスになってから、繁華街で酔っ払った男女のキスどころか、相当に際どいシーンを目撃したこともあるけれど、やっぱり自分には無理だと思った。

でも、彼とのキスは、これまで自分の周りに張り巡らせていたあらゆる防御壁を突き崩すほどの威力があった。

無理どころか、キスだけでは終われない気分だ。


「……家は?」

「……〇×町△△丁目」


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