逆プロポーズした恋の顛末


(ちょっと待って、幸生ー! ゆーこちゃんは、ないでしょ! せめて夕雨子さんに……)


相手がどんな反応をするのかまったく読めず、ダラダラと冷や汗が背中を流れ落ちる。

しかし、「ゆーこちゃん」、もとい夕雨子さんは目を丸くし、次いで嬉しそうにふわりと笑った。


「懐かしいわねぇ。そんな風に呼ばれるのは何十年ぶりかしら。小学生の頃以来だわ」

「ゆーこちゃんじゃなくて、おばあちゃんのほうがいい?」


幸生がお伺いを立てたると、夕雨子さんはどちらでもかまわないと言う。


「どちらでもいいわよ。幸生くんが好きな呼び方で」

「じゃあ、ゆーこちゃんにする。そっちの方が、カワイイもんね!」

「まぁ! 女心をよくわかっているのね、ふふ……。律さんも、わたしのことはどうぞお好きに呼んでちょうだい」

「すみません……」


くすくす笑う彼女の様子は、健康的とは言えないかもしれないが、とても近々ホスピスへ移らなくてはいけない状態には見えなかった。

だからだろう。幸生は、子どもらしい率直さで、車いすに乗っている理由を訊ねる。


「ねえ、ゆーこちゃんは足が痛いの?」

「足だけじゃなくて、あちこち痛くて歩けないのよ。いつもは寝てばかりなんだけれど、今日は幸生くんが遊びに来てくれたから、ちょっと元気になったの」

「ふうん? じゃあ、ぼくが毎日遊びに来たら、もっと元気になれる?」

「そうだといいんだけれど……遠い所へお引っ越ししなくちゃいけないから、幸生くんにはもう会えないと思うわ」


残念だと言う彼女に、幸生はなおも質問する。


「どうしてお引っ越しするの?」

「痛いのを治してくれるお医者さんのところへ行くのよ」

「じゃあ、おじいちゃん先生のところに来たら? おじいちゃん先生は、ビョーキもケガも治してくれる、すごーいお医者さんなんだよ! きっと、ゆーこちゃんのビョーキも治してくれるよ?」

「…………」

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