逆プロポーズした恋の顛末
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「起きる気配、ゼロですねぇ。部屋まで抱いて行きますよ」
やがて尽のマンションに到着し、後部座席を振り返った午来弁護士は、ピクリともしない幸生を見て、笑いながらそう申し出てくれた。
「そんな! 申し訳ないので……」
「お土産や荷物もありますし。寝た子を担ぐのは息子で慣れてますから、遠慮は無用です」
「……すみません」
帰り際、吉川さんにアップルパイやクッキーなど、わたしたちが食べきれなかったお菓子がどっさり入った紙袋を持たされていた。
結構な重さがあるので、正直言って、眠る幸生を抱えてひとりで運ぶのはしんどいと思っていたところだ。
わたしが荷物を持ち、午来弁護士が眠る幸生を抱きかかえ、マンションのエントランスへ足を踏み入れると、思いがけず彼を呼ぶ声がした。
「午来さん?」
こんなところでまさか知り合いに会うとは、彼も予想していなかったらしい。
驚きの表情を隠しきれないまま、笑顔でこちらへ歩み寄る人を見つめる。
驚いたのは、わたしも同じだった。
彼女の美貌に、ではない。
(この人……あの日、尽と一緒にいた……)