逆プロポーズした恋の顛末


四年前、ちらりと見ただけの彼女を覚えていた自分に、驚いた。

イルミネーションが輝く夜の街で、尽と初々しい恋人同士のように寄り添って歩いていた女性。
確か、大学教授の娘で、尽とは大学の同期。

そして、尽の縁談相手。


森宮(もりみや)さん」


午来弁護士が、わたしの知らない彼女の名を呟く。


「尽がいたら、お土産を渡そうと思って寄ってみたんだけれど、留守だったわ。仕事みたいね?」


長いストレートの黒髪、すらりとした身体によく似合うネイビーブルーのワンピース。
傷ひとつなく、きちんと手入れされているハイヒールのパンプスは上品な輝きを持つシルバー。

顔立ちは、そんなきちんとした装いが似合う正統派美人だけれど、がっかりしたように肩を落とす様が、かわいらしい。


「ええ。今日は当直勤務にあたっています。いつ、帰国されたんですか?」

「一昨日です。久しぶりの長距離フライトでジェットラグになってしまって……。回復するまで、動けなかったの。もしかして、そちらが溺愛中と噂の奥さまと息子さんかしら?」


いたずらっけのある笑みでからかう彼女に、午来弁護士は曖昧な答えを返す。


「はぁ、まぁ……そんなような……」

「鉄壁と言われた女検事に猛アタックして、授かり婚に持ち込んだって、海の向こうまで聞こえてきてましたよ?」


尽と比較すると、紳士で草食系にしか見えない彼が、そんな情熱を隠し持っていたとは驚きだ。


(午来さん、意外と……肉食?)


そう思ったけれど、言われた本人は迷惑そうに顔をしかめている。


「誰ですか、そんなデタラメな噂を流したのは……」

「尽に決まってるでしょう?」

「アイツ、余計なことを……」

「あ、ご挨拶がまだでしたね? わたし、森宮 睦美(もりみや むつみ)といいます。産婦人科医です……と言っても、いまは留学先から帰国したばかりで、求職活動中ですが。午来さんとは、大学の同期だった尽――立見 尽を介して知り合って、数回、三人でお食事させていただいた仲なんです」


わたしを彼の妻だと思っているからだろう。
何らやましいことはないとばかりに説明してくれた彼女は、お嬢さまでも世間知らずではなさそうだ。


「森宮さん、求職活動中と言っていましたが、医局には戻らないんですか?」


彼女は、午来弁護士の問いに、サラサラの黒髪を揺らして首を振る。


「誘われてはいるけれど、あまり魅力を感じなくて。だから、尽のところか、もしくは尽のお母さまのところで産科医を募集していないか訊こうと思って、来てみたのだけれど……フラれてしまったわ」

「医局に戻らないなんて、教授が許すとは思えませんが?」

「父は、来年退職。それまでにわたしに結婚してほしいと思っているので、出会いがある場所で働きたいと言えば、認めるでしょう」


結婚、と聞いてドキッとした。
相手は尽だと言われたわけではないが、何とも落ち着かない気持ちに見舞われる。

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