逆プロポーズした恋の顛末
*****
幸生がカレーの次に大好きな親子丼をお昼ごはんに食べ、さっそくマンションを出た。
まずは、尽が言っていたパン屋さんを百メートルほど先に発見したものの、庶民向けとは思えぬ高級な佇まいだ。
ウィンドウ越しに見る店内に並ぶ、大人向けのパンたちに幸生は目を丸くしている。
「クマさんのパンは、ある?」
「うーん、クマさんのパンはなさそうねぇ……」
わたしたちが住む小さな町にもパン屋さんはある。
遠方からわざわざ買いに来るひともいる天然酵母を使った本格派のパンを焼いている。
しかし、店構えもパンの種類も庶民的。子ども向けに動物の形をしたパンが数種類あって、幸生はクマの顔をしたクリームパンがお気に入りだった。
「でも、ここじゃないお店にはあるかもね?」
しょんぼりしているのを見かねて、ここは都会だし、きっとあるはずだという期待を込めて言ったのだけれど、墓穴を掘った。
「なかったら、ママが作ってくれるの?」
「え。あー、……うん、作ってみようかな?」
パン作りなんてしたことがないけれど、何とかならないこともないだろう。
絶望的に不器用というわけじゃないし、たぶん、いや、きっと何とかなる。
「あ、あっちにスーパーマーケットがあるわね。幸生の好きな果物があるか見てみようか」
「うん!」
パン屋の少し先にそれらしき看板を見つけ、何の気なしに店へ入れば、そこは高級食材や輸入品がズラリと並ぶセレブな空間で、再び幸生が目を丸くする。
見慣れぬ野菜やカラフルな輸入物のお菓子などを見て歩き、とりあえず、途中で水分を補給するために、外国産のミネラルウォーターと果汁百パーセントのリンゴジュースを買って、店をあとにした。
(何というか……尽との生活レベルの差をひしひしと感じるわ)