逆プロポーズした恋の顛末
だから、彼女が自分の息子を産んでいたと知って驚きはしたが、違和感はなかったのだ。
はじめて会う息子は、びっくりするくらい幼いころの自分にそっくりで、律が愛情をたっぷり注いで育ててきたことは、すぐにわかった。
元気がよく、好奇心旺盛で、よく笑う。
素直で、聞き分けがよくて、人懐こい。
他人に対する警戒心が薄いのは、信頼できる人間に囲まれて育った証拠だろう。
二人は、父親や夫がいなくても十分幸せに生きていた。
父親だと名乗り出て、彼女たちの平和で穏やかな日常を壊すのは、必ずしもいい結果を生まないのではないか。
そんな不安もなくはなかった。
しかし、嬉しいことに、幸生は突然現れた父親を受け入れてくれ、律も父親として接することを許してくれた。
それだけで、十分だ――だなんて、心にもないことを言うつもりはない。
期間限定の父親役なんて、ごめんだ。
律とも、他人のままでいたくない。
結婚し、家族になりたい。
幸生の存在を別にしても、結婚するなら、相手は律以外考えられなかった。
ところが律は、学歴や職業など、こちらにしてみれば「どうでもいい」ことにこだわり、なかなか復縁を了承してくれない。
粘れば――最終的には押し倒せば何とかなるだろうと思い、強引に同居して距離を詰め、結婚を前提にこちらに引っ越す同意を取り付けた。
律は相変わらず煮え切らない態度を見せているが、なし崩しで結婚まで持っていくつもりだ。
すっかり母親モードだと言うその顔には、そのまなざしには、ちゃんと「女」としての欲望が映っている。
それを汲み取って思わせぶりな態度を取れば、あからさまに慌てるのだから、うぬ惚れるには十分だろう。
それは、自分にも言えることで、あまり強引なのも、年下の余裕のなさと捉えられそうで我慢してきたが、そろそろ限界だ。