逆プロポーズした恋の顛末


現れたのは、やたら元気がいいと噂の新人看護師。確か名前は、イシダだかイシカワだか。
ネームプレートを見て、「イシダ」だと確認する。


「よかったぁ……もう、病院出ちゃったかもって思ってました」


ホッとしたようなその表情に、イヤな予感がした。


「何がよかった、だ。この痴女が」

「痴女って、まだ脱いでないじゃないですか。それより、尽先生! ついさっき、アッペの男性が搬送されてきたんですが、消化器の三浦先生は急変で手が離せなくて。村雲部長が執刀してくれることになったんです。が……」

「……が?」

「助手に尽先生をご指名です」


外科部長を務める村雲医師は、研修医時代にとても世話になった指導医のひとり。
院長の息子という色眼鏡で見ることなく、手加減なしで指導してくれた恩人だ。

ちょうど自分が律と別れた頃に嫁を貰い、子どもも生まれ、すっかり丸くなった……と聞いていたが、つい三か月前に離婚。以来、とてつもなく機嫌が悪く、荒れまくっているらしい。

しかも、祖父の弟子だから、律たちのことを聞いているかもしれず、絡まれる可能性がある。
できれば、あまり顔を合わせたくない。

そんな個人的事情もあるにはあるが、助手を務めるべき研修医の顔が、何名が脳裏に浮かんだ。


「俺よりも助手に向いているのが、他にいるだろ」

「いますけど、コンスタントに外科医の仕事をしないと血を見ただけで、具合が悪くなるかもしれないだろうと仰せです」

(んなわけあるか!)


そう心の中で反論したが、下手なことは言えない。
巡り巡って、本人の耳に入ったら……どうなることか。
想像するのも恐ろしい。

それに、グダグダとゴネて患者を待たせるわけにもいかない。


「……わかったよ。どこでやる?」

「7番です。ラッキーセブンですよ!」


ぐっとサムズアップをして見せるイシダに溜息を吐いて、脱ぎかけたスクラブをもう一度着込んだ。

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