逆プロポーズした恋の顛末
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研修医時代よりも、さらに厳しい村雲部長の要求に従い、相変わらずの鮮やかな手並みに感心しながら、助手を務めること約一時間半。
無事手術が終了し、患者を消化器科へ引き渡した時にはすでに正午間近だった。
この間、健診に来た祖父と会ったという話は出たものの、律たちのことで絡まれることはなく、胸を撫で下ろした。
別れ際、極悪人のような顔つきで、「これからもちょくちょく指名してやるから、楽しみにしてろよ!」と言われたが。
(あとで、それとなく牽制してもらうよう内科部長に言っておくか……。いや、あの人、村雲部長に弱いからな。むしろ、差し出されるか……?)
外科と内科を行ったり来たりする生活を想像しかけて、首を振る。
そんなことをすれば、医者の不養生どころの話ではなく、過労死まっしぐらになる。
(とりあえず……早い所帰って、律と幸生に癒されたいが……約束は、守れそうにないな)
幸生には昼頃に帰ると言ってあったが、約束を守るのは不可能だ。
できることなら、幸生との約束は破りたくないが、これからこういうことは頻発するだろうし、いい予行練習になると思いたいところだ。
再び更衣室へ戻り、私物を詰め込んだバックパックからスマホを取り出す。
このまま待機するにせよ、帰るにせよ仮眠を取りたくて、無人の医局でソファーにだらしなく横たわり、律へのメッセージを打っていると、見慣れぬ番号から着信があった。
不審に思いつつも応答すれば、覚えのある声が聞こえた。
『尽? 久しぶり!』
「……睦美? どうしたんだ、突然」
森宮睦美は、大学時代の同期で親しいと言ってもいい友人の一人だ。
卒業後も、彼女が日本にいる間は、時々一緒に食事をしたり、飲みに行ったりしていた。
しかし、四年前に彼女が留学してからは、月に一、二度メールでやり取りする程度。電話で話すほどの用もなく、音信不通一歩手前の状態だった。
『帰国したのよ』
「いつ?」
『つい最近。積もる話もあるし、いまから会えない?』