逆プロポーズした恋の顛末
『あの時、わたしたちは「まだ」と言ったでしょ? だから、状況が変われば話を進めるものだと思われているのよ。案の定、父にせっつかれたし』
「そんなこと、いまさら言われても無理だろ。そっちだって、」
『わたし? わたしは、別に尽となら結婚してもいいかなって思ってる』
「…………」
予想外の彼女の言葉に驚き、思考が完全に停止した。
かろうじて発した言葉は、「いま、何て言った?」だ。
『結婚してもいいって言ったのよ。いまさら、どっぷり恋愛にハマるような年でもないし、第一そんな暇ないでしょ? お互いに。いい友だちでいられるんだから、いい夫婦でもいられると思わない? それとも、尽にはわたしと結婚できない事情でもあるの?』
「それは……」
『尽のお祖母さまにも、ご挨拶に行かなくちゃと思っていたんだけれど、電話が通じなくて。どうなさっているのか、尽は知っている?』
「……いや」
律と幸生のことは、一応両親には報告してあるが、祖母にはまだ何も伝えていなかった。
どちらかと言うと放任主義の祖父とちがい、祖母は何事もきっちり管理し、自分の目の届かないところで問題が起きるのが許せないタイプ。
横槍を入れて来る可能性が高いのはわかっていたので、まずは両親を懐柔するつもりだったのだ。
これまで、祖母が何を考え、どんな行動をしようとしているのか、いちいち気にしたことはない。
何を言われようと、何をされようと、意に染まないことなら従わなければいいだけの話だ。
しかし、律と幸生にかかわることならば、呑気に傍観してはいられない。
妙な先入観を持たれては、余計に面倒なことになりそうだ。
縁談の件にしても、律たちのことにしても、祖母には自分から説明すると睦美に言っておく必要があった。
『とにかく、会って話さない? 縁談のこととは別件で、相談したいこともあるし』
「わかった」
『ありがとう。一時間くらいでそっちに着けると思うから。また電話するわね?』
「ああ」
それきり電話は切れた。