逆プロポーズした恋の顛末


できることなら、彼女と会うよりも、律と幸生に会いたかったが、三人で暮らす未来に関わることだ。後回しにはできなかった。


(事情を話せば、睦美も理解してくれるだろう。あっちだって、どうしても俺と結婚したいと思っているわけじゃないだろうし……)


もしも、律に出会っていなければ、「いい友人でいられるなら、いい夫婦にもなれる」という睦美の考えに同意したかもしれない。

しかし、友情以上のものを抱ける女に出会ったからには、それ以下の関係で満足できるとは思えなかった。

睦美には、友情以上のものを感じたことは一度もない。
それは、むこうも同じだろう。
彼女が「女」の顔を見せたことはないし、こちらも「男」の顔を見せたことはない。

会って話すことと言えば、ほぼ仕事関係。
恋愛絡みの話はしないし、あちらからも振って来ない。

大学時代、友人のカノジョに相談があると言われ、間に受けて二人で飲みに行った結果、下心アリアリで迫られ、友情にヒビが入った。
以来、相手にそういう気がありそうだと少しでも感じたら、関係を断ち切る俺の姿を何度も見ているからだ。

自意識過剰だと言われても、かまわない。危うきには近寄らずが一番。
どうでもいい女のために、大事な友人を失うなんて愚行を犯すよりは数百倍、数千倍マシだ。


(睦美は、俺が何度もそう言っているのを聞いていたんだ。いまさら特別な感情を抱いていた、なんてことはないだろうし……律と幸生のことを話せば、逆に協力してくれるかもしれない)


そんな楽観的な考えに満足して、目をつぶった。


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