逆プロポーズした恋の顛末
「…………」
できれば、いきなり打ち明けるような真似はしたくなかったが、ごまかせば後で苦しくなる。
「……子どもが、いるからだ」
「子どもって、尽の子ども?」
「ああ」
「……幸生くん?」
睦美が呟いた名前に、どうして知っているのだと訝しく思う。
ちらりと横目で窺えば、彼女は前を見据えたまま薄っすらと笑みを浮かべている。
「昨日、尽のマンションを訪ねたの。彼女、午来さんと一緒だったわ」
「……は?」
睦美がマンションを訪ねて律と会った、という事実よりも、律が午来と一緒にいたという話に驚いた。
午来は、高校時代の友人で弁護士だ。睦美と三人で、何度か食事をしたこともあるから、人まちがいということはないだろう。
しかし、律と午来の接点がどこにあるのか、まったく思い当たらない。
その答えは、睦美が知っていた。
「午来さん、亡くなったお父さんが夕雨子さんの離婚のお手伝いをした関係で、彼女の相談に乗ったりしているみたいね?」
「バアさんの……?」
「前に三人で食事をした時、言われたの。夕雨子さんがわたしを気に入ったのもわかるって」
「…………」
(アイツ……睦美に会うために、嘘を吐いたのか?)