逆プロポーズした恋の顛末
睦美と午来を会わせたのは、女医である依頼人からパワハラの相談を受けていて、同じ年頃、同じ職業にある人間の視点や意見、現状なども聞いてみたいと言ったからだった。
まったくの嘘だったわけではないかもしれないが、話を聞くだけなら、睦美以外でもかまわなかったはずだ。
「その後、夕雨子さんに呼び出されてね。尽があまり良くない相手とお付き合いしているから、わたしとの縁談を進めたいんだって聞いたわ。それなりのものを提示すれば、たぶんあちらから別れると言うだろうし、心配はいらないと言われたの。でも、わたしは留学するつもりだったし、その時はどうでもいいと思って聞き流したけれど……その時の相手、律さんだったんでしょう?」
寝耳に水とは、まさにこのことだ。
律が突然別れると言い出したのは、幸生を妊娠したからだとばかり思っていた。
あの時点で、俺が結婚なんて考えておらず、一人前の医者になるのに必死で、父親になる準備も覚悟もまるでなかったことを律は知っていた。
まさか祖母が別れるように迫っただなんて、考えてもみなかった。
(もしかしたら、いまもか……?)
律が、なかなかすんなり復縁に応じないのも、結婚に踏み切れずにいるのも、午来を通して祖母から何か言われているからではないか。
そんな疑念と憤りに、いますぐ祖母のもとへ向かい、直接問い質したい衝動に駆られる。
しかし、睦美が放ったひと言で、一気に冷静さを取り戻せた。
「律さんが尽と別れたのは、お金が欲しかったからかもね? 尽に黙って子どもを産んだのも、それを理由にして、あとからもっと多額のお金を引き出そうとしたから、ということもあり得るんじゃないかしら?」
ちょうど駅前に差しかかったところだったのは、運がよかった。
ウィンカーを上げ、ピックアップレーンに入り、車を停める。
「尽?」
なぜこんなところで停めるのだと訝しむ彼女を怒鳴りつけないよう、深呼吸する。
強すぎる怒りに、笑ってしまいそうだ。
最も言いたいのは「降りろ」のひと言だが、それだけで済むとは思えない。
冷静になれ、と自分に言い聞かせているとスマホに着信があった。
(噂をすれば……か)
ディスプレイに表示された名は、いままさに話題に上っていた人物。午来だ。
頭を冷やし、午来から直接事情を聞くためにも、折り返しにせず、応答した。
「午来。珍しいな? おまえがこんな昼間から電話を架けてくるなんて」