逆プロポーズした恋の顛末
(だからと言って、もう一度改めて会う気にはなれない)
「森宮、降りてくれ」
「え?」
「俺は、おまえとは結婚できない。バアさんには、俺から話をつける。森宮教授にも、俺から正式に断りの旨を申し入れ、改めてお詫びさせてもらう」
「尽! 冷静になって、よく考えて? 何のメリットもないどころか、デメリットしかないような相手を選べば、後悔するのは尽なのよ? お金のために、いろんな男の人と関係を持っていたような人と結婚すれば、アレコレ言われるのは目に見えてるじゃないの。わたしなら、医師としても尽の仕事を理解してあげられるし、父の伝手もあって、力になれる。わたしたちなら、あらゆる点で釣り合いが取れるわ。だから……」
もしも、ただストレートに、好きなのだと、だから結婚したいのだと言われたなら、誠意をもって、受け入れられないと真摯に応えただろう。
だが、相手を貶めることでしか自分の価値を主張できない幼稚な思考の持ち主に、優しい言葉をかけるほど人間はできていない。
「お前に言われなくても、何をして、何をしなければ後悔するかなんて、とっくの昔に思い知ってる。律と幸生を手放したら、俺は一生後悔する。おまえがいなくても、俺はフツーに生きていける。でも、律と幸生がいなくなったら、とてもじゃないが、フツーに生きてはいられない。おまえと律じゃ、ハナから勝負にならねーな」
「…………」
「よく理解できていないようだから、もう一度言う。たとえ律と上手くいかなかったとしても、俺は、おまえとは結婚できない。心底惚れている女を、金目当てだなんて侮辱する女を受け入れられるほど、俺は心が広くねぇんだよ」