逆プロポーズした恋の顛末
唇を引き結び、こちらを睨みつけた睦美は、いままで俺が見たことのない顔をしていた。
もしかしたら、いままで、わざと「女」であること見せまいとしていたのかもしれないと思ったが、そうだとしてもイチミリたりとも心が動かなかった。
大事なものを守るためなら、薄情な男だと言われようが、ロクデナシと言われようが、どうでもいい。
ただ、長年培った友情をぶち壊したあとに残るのが、苦い後悔だけというのも後味が悪かった。
勉強に明け暮れ、終わりの見えない課題の山に溺れかけていた医学生時代を乗り切れたのは、彼女を含めた友人たちのおかげでもある。
「森宮」
「…………」
「おまえなら、もっとイイ女になれるだろ?」
ドアを開けて降り立った彼女に投げかけた言葉は、決して嫌味のつもりではなかったが、バンッと大きな音を立ててドアが閉まった。
友人を一人失おうとも、恩師に恨まれようとも、祖母に反対されようとも、そんなことはどうでもいい。
いまはただ、律と幸生の無事な顔を見たかった。
それだけで、どんな不安も苛立ちも、穏やかに解れていくと知っている。
二人が生きて、傍にいてくれるだけで、自分は幸せになれると知っていた。