逆プロポーズした恋の顛末
閉店までは、まだ間があるものの、新たな客は望めない中途半端な時間だ。
心身ともに、まだ本調子に戻っていない自覚もあり、ママに頼んで上がらせてもらうことにする。
働かなければ稼げないが、身体を壊してしまっては、働くこともできなくなってしまう。
無理は禁物。頼れるパートナーも、親族もいない。自分を労われるのは、自分だけなのだから。
とはいえ、禁欲生活を送れるほど意志は強くないので、帰宅途中、コンビニで棚に残っていた三種類のブリトーを買い占める。
とろけるチーズの濃厚な味わいと意外と食べ応えのあるブリトーの生地は、キレのあるビールと抜群に相性がいい。
真夜中に高カロリーなものを食べるリスクが脳裏を過ったが、誰も甘やかしてくれないのだから、自分で自分を甘やかすしかないと言い訳をひねり出す。
いや増す空腹に足を速めてボロアパートに辿り着き、シャワーが先か、ブリトーが先か、なんてことを考えていた目が、予想外のものを捉えた。
(え? 何?)
捨てられた子猫――ではなく、飼い主のもとを脱走してきたような大型犬――「立見 尽」がドアの前に座り込んでいる。
「ねえ、何してるの?」
「見りゃわかるだろ。待ってた」
ぬっと立ち上がった尽は、髪はボサボサ、無精髭も伸ばしっぱなし。ちょっと……いや、だいぶくたびれているようだ。
「来るなら来るって言いなさいよ」
どれくらい待っていたのかわからないが、このまま追い返すのも何だし、目の保養になるし、と部屋に上げることにする。
「腹減った」
「あのね、……って、なにして……」
玄関に入るなり、背後から抱えあげられ、そのままベッドへ運ばれる。
「ちょっと待ちなさいよ。お腹空いてるんじゃないの?」
「だから、先に食うんだろ」
「な、」
勝手な言い分を口にした尽は、わたしのジャケットを脱がせ、ブラウスのボタンをあっという間に外してしまう。
うっとりするようなキスをされ、大きな手がスカートの裾から潜り込むのに抵抗する気も失せる。
――三十分後。
すっかりわたしを食べ尽くして満足した彼は、セミダブルのベッドを占領して寝落ちした。
(まったくもう……何なのよ。あの一回だけのつもりじゃなかったわけ?)
尽とは、一夜限りの関係でもいいと思っていたし、彼もそのつもりだろうと思っていた。