逆プロポーズした恋の顛末


「……何か飲むか?」


気まずい沈黙を破ったのは、何のひねりも感じられない、尽のひと言。

森宮さんのことにしろ、夕雨子さんのことにしろ、気分が上向くような話にはならないと思われる。
だからこそ、息が詰まる雰囲気を少しでも和らげたかった。


「そうね……できれば、ビールが飲みたいわ」

「そんなもん飲ませたら、看護師に締め上げられる」

「先生がいいって言えば、いいんじゃないの?」

「言うわけねーだろ」

「でも、シラフではとても聞けないような話じゃないの?」

「あのな……妄想たくましくすんのも、いい加減にしろよ? 大体、結婚したいと思う相手との縁談だったなら、保留になんかしねーだろうが」

「四年前はそうでも、いまはちがうかもしれないじゃない?」


いくら言葉を連ねても、行動が伴わなければ意味はない。
尽のこれまでの言動から、わたしと幸生のことを一番に考え、大事にしてくれていることは十分わかっていた。

それでもなお、拭いきれない不安が生まれるのは、四年前、寄り添って歩く彼女と尽を見た時、物わかりのいい大人の女を演じ、呑み込んでしまったものが燻っているから。

みっともなくていい。
物わかりのいい女になんて、なれないし、なりたくない。

頭を打って、どこかのタガが外れたのか、もしくはどこかのネジが緩んだのかもしれない。

呑み込み、堪えた言葉や感情が、込み上げ、口から次々飛び出してしまう。


「幸生がいるからとか、一度言ったことを撤回できないとか、そういうことは関係なく、いま尽がどうしたいのか、何を考えているかを聞きたいの。尽の正直な気持ちを知りたいのよ!」


尽は、いきなり感情的になったわたしに困惑するかと思いきや、柔らかな笑みを浮かべて答えた。


「結婚するなら律しかいないと思っている。四年前から、ずっとだ」


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