逆プロポーズした恋の顛末


尽は、どう見てもシングルサイズのベッドに無理やり上り、わたしの横に並んだ。


「……わたしと結婚して、後悔しない?」

「律と幸生を手放した方が、後悔する」

「でも、」

「森宮を車に乗せたのは、縁談を正式に破談にしたい、余計なことをバアさんに言うなと釘を刺すためだった。まさか、むこうが乗り気だなんて、欠片も思っていなかったからだ。でも……律に、先に話すべきだった。四年前、バアさんに別れるように言われたんだろ?」

「…………」

「不安にさせて、悪かった。いまも、四年前も」

「…………」


率直な謝罪に、凝り固まっていた不安が解けていく。

知らず握りしめていた手を大きな手で包まれると、ホッとする。


「律は、もうちょっと自信持て。大体、目の前に、これ以上はないくらいイイ女がいて、自分のことを求めてくれているとわかっているのに、よそ見をする余裕なんかあるわけねーだろ?」


ここで舞い上がり、「嬉しい!」なんて抱き着けるのが、きっとカワイイ女なのだろう。
けれど、物わかりのいい大人の女であることを投げ出した反動か、ネガティブな想いばかりが口を出る。


「だって、わたしの方が年上だし」

「そればっかりは、医学の力でもどうにもならねーよ。諦めろ。どうしてもイヤなら、サバ読めばいいだろ?」

「イヤよ!」

「重要なのは、実年齢じゃなく、精神年齢と見た目だろ?」

「どういう意味よ……」

「好きに解釈すればいい。で、他になにか気になることは?」

「……わたし、高卒で、」

「だから? 学歴が高ければ優れた人間ってわけじゃないだろ? それに、正確には、K大医学部中退だろ?」

「なんで知って……?」

「マスターに聞いた」

「でも……ホステスだったし」

「だから? 真っ当に働いてただけなのに、何で後ろめたく思う必要がある? むしろ、男を見る目の肥えた律に選ばれて、俺がうぬ惚れるとは思わねーのかよ?」

「わたしが選ばなくても、自分はイケメンだって自覚してるじゃない」

「それは否定しない」

(謙遜って言葉、尽の中にはなさそうね……)

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