逆プロポーズした恋の顛末
「それに、わたし、何の目標もなくて……」
「目標を立てても、達成できなきゃ意味ないだろ? だったら、目標のためにいろんなものを取りこぼし、見逃すよりも、一日一日を大事に過ごす方が、最終的に得るものは多い」
「だけど、向上心は必要……」
「ヤル気があるのは、大歓迎だ」
「怪我人相手に、何する気よ!」
病衣のあわせに伸びてきた尽の手をピシャリと叩く。
「そういう話だろ?」
「そ、そっちの話じゃないわよ!」
「そっちって、どっちだよ?」
「……だからっ」
「だから?」
こちらを覗き込む尽に、鼻先が触れ合いそうなほどの至近距離で見つめられ、鼓動が急激に加速し、言葉が喉につかえる。
みぞおちのあたりがフワフワして落ち着かず、視線をさ迷わせる。
「それに、夢も……」
幸せな人生を送ってほしいという意味を込めて、息子に「幸生」と名付けた。
けれど、それは夢というよりは祈りのようなものだし、自分自身のこととなると……何も思い浮かばない。
しかし、そんなわたしに尽は思いもよらぬ言葉を告げた。
「律の夢は、俺が叶えてやるから心配すんな」
「え?」
「俺みたいなイイ男と結婚して、俺によく似たカワイイ子どもをゴロゴロ産んで、ふたり一緒に年を取って、しわくちゃで幸せなジイさんとバアさんになるんだろ?」
「…………」