逆プロポーズした恋の顛末


「さすがに、車いすで暮らすのは無理でしょうけれど、バリアフリーで、手すりも廊下だけでなくトイレやバスルームにもありますし、十分移動の助けになるでしょう。あと確認すべきは……キッチンと冷蔵庫の中身ですね」


ひと通り、基本的な設備や各部屋の様子、位置関係を確かめた吉川さんは、幸生にお昼ごはんのリクエストを聞きながら、一緒に冷蔵庫を覗き込む。

何でも作れそうだと言う吉川さんに、幸生はチャーハンをリクエストし、そのまま質問攻めをはじめる。


「吉川さんは、ゆーこちゃんみたいな名前はないの?」

「さちこって名前なのよ。幸生くんと同じ漢字を書くの」

「じゃあ、さっちゃんだね!」

「さっちゃんなんて呼ばれたら、一気に若返りそうだわ。うちの子たちも、さっさと結婚して、早く孫の顔を見せてほしいんだけど……」

「娘さん、ですか?」

「ええ。アラサーの娘が二人。二人とも看護師なんです。だから、出会いがなくはないと思うんですけれどねぇ……。わたしに似て気が強いのがいけないのかもしれません。結婚どころか、お付き合いしている人もいないみたいで。幸生くん、大きくなったらわたしの娘と結婚してやってくれないかしら?」


吉川さんの冗談に、幸生はきょとんとした顔で首を傾げる。


「けっこんって、何するの?」

「幸生くんのママとパパみたいに、仲良しで一緒に暮らすの。わたしの娘は、ゆきちゃんとかおちゃんっていうのよ?」

「ゆきちゃんとかおちゃん、カワイイ?」

「かわい……くないこともないと思うけれど、ママよりは美人じゃないわねぇ」


娘に対する吉川さんのシビアな評価を聞いた幸生は、あっさり別の相手がいいと言う。


「じゃあ、ぼく、ちはるちゃんがいい」

(えっ!? 千陽ちゃんっ!?)

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