逆プロポーズした恋の顛末


幸生がメンクイだというだけでも衝撃だったが、まさかの相手に驚いた。


「ちはるちゃんって、お友だち?」

「ううん。動物園で会ったんだ。すっごくカワイイの。保育園には、あんなにカワイイ子はいないよ!」


力説する幸生に、吉川さんは驚きつつも優しく微笑む。


「ちょっと早い気もするけれど、幸生くんの初恋ね」

「はつこいって、なぁに?」

「ママよりも好きな女のひとができるってこと」

「え! ちがうよ! ママが一番だよっ!」

「そうなの?」

「そうだよ! ママもぼくのことが一番好きなんだよねっ!? パパよりも好きだよねっ!?」


そうだ、と言い切ってしまいたいところだけれど、はたしてそれが正解なのだろうか。
息子と父親の関係がどんなものなのか、積み重ねた時間が短すぎてわからない。

ためらうわたしに、幸生は訳知り顔で「おとこどーし」の秘密を暴露した。


「パパは、ぼくが起きている時は、ママはぼくのものでいいって言ったもん! パパは、ぼくが寝ている時だけ、ママはパパのものでいいって言ったもん! ぼく、あかちゃんじゃないから、ずっと寝たりしない。パパはお仕事でいないし、ぼくのほうが、ママとずっと一緒にいるもん!」

(尽―っ! 何を言ってるのよーっ!)


自分が何を暴露したのか、幸生は本当のところは理解していないだろうが、所長と吉川さんはしっかりはっきり理解した。


「そうか、そうか。仲良くりっちゃんを分け合うことで、話がついているのか」

「尽先生、息子と律さんを奪い合うなんて、余裕がないわねぇ」

「ねぇ、ママっ!」


尽が帰って来たら、そういう話はまだ早いと抗議しようと心に決めつつ、答えをねだる幸生の頭を撫でてやる。


「幸生のこともパパのことも、二人が起きている時も、寝ている時も、ママはいつだって大好きよ。幸生だって、そうでしょう?」

「……うん」


幸生は不満そうな表情ながらも、頷く。


「ただね、さっき幸生も言っていたみたいに、パパはお仕事が忙しくて、なかなかママや幸生と一緒に過ごせないの。幸生が起きている間は幸生と仲良くして、幸生が寝ている間にママと仲良くしたいってことなの。幸生も、起きている間はママだけじゃなく、パパとも仲良くしたいでしょう?」

「……うん」

「幸生が起きている時は、ママもパパも一緒に、三人で仲良くしない?」

「する」

「ありがとう。パパが帰って来たら、ママと一緒にぎゅってしてあげよっか」

「うん!」

(はぁ……素直で聞き分けのいい子に育ってくれて、本当によかった)


まだ三歳、しかもようやく父子の関係を築き始めたばかりだというのに、尽にライバル心を抱かれても困る。
どっちも愛する存在。どちらか一方なんて選べないから、二股をかけているような気分になってしまう。

< 204 / 275 >

この作品をシェア

pagetop